
【JWSTが撮った】111光年先の惑星が、初めて「写真」になった日。 #JWST #系外惑星
【JWSTが撮った】111光年先の惑星が、初めて「写真」になった日。 私たちは、ずっと「影」だけを見てきた 夜空を見…

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夜空のどこかに、息をのむほど美しい青い惑星がある。地球とよく似た、深いコバルトブルー。あなたはきっと、その星を見て「ここにも海があるのかもしれない」と思うだろう。生命の気配を、青さの中に探してしまうだろう。
だが、その青の正体を知ったとき、あなたは裏切られる。
そこに海はない。空気もやさしくない。その星では、砕けたガラスが、時速8000キロメートルを超える猛烈な横殴りの嵐となって、永遠に降りつづけている。美しい青は、地獄の色だったのだ。
その惑星の名は HD 189733b。地球から約64.5光年離れた、こぎつね座の方向にある巨大ガス惑星だ。発見されたのは2005年。主星(その惑星が周回する恒星)の手前を惑星が横切る瞬間、わずかな減光をとらえる「トランジット法」によって、その存在が確認された。
距離64.5光年といえば、宇宙のスケールではご近所だ。だからこそHD 189733bは、これまでに最も詳しく調べられた系外惑星(太陽以外の恒星をまわる惑星)のひとつとなった。
この星は「ホット・ジュピター」と呼ばれる種類に属する。木星のように巨大なガス惑星でありながら、主星のすぐそばを公転している灼熱の星々のことだ。HD 189733bと主星の距離は、太陽と地球の距離のわずか30分の1ほど。あまりに近すぎて、たった2.2日で公転を一周してしまう。地球の「1年」が、ここでは「約53時間」なのだ。
長らく、この星はただの灼熱のガス球だと思われていた。転機が訪れたのは2013年。NASAのハッブル宇宙望遠鏡が、ある歴史的な観測を成し遂げる。系外惑星の「色」を、人類が初めて直接測定した瞬間だった。
研究チームは、惑星が主星の裏側に隠れる「二次食」の前後で、届く光の色がどう変化するかを精密に分析した。惑星が隠れれば、その惑星自身が反射していた色の光が消える。その差分こそが、惑星の色そのものだ。
答えは──深く、鮮やかな**青(ディープ・コバルトブルー)**だった。
地球が青いのは、広大な海と、太陽光を散乱させる大気のおかげだ。だから多くの人は、青い惑星と聞けば反射的に水を思い浮かべる。
しかしHD 189733bの大気温度は、摂氏1000度を超える。水が液体でいられる温度ではない。ではあの青は、いったい何なのか。
科学者たちがたどり着いた仮説は、悪夢のように美しい。
この星の大気には、おそらくケイ酸塩(シリケイト)の粒子が漂っている。ケイ酸塩とは、地球の岩石やガラスの主成分そのもの。摂氏1000度の灼熱大気の中で、この物質が凝結し、無数の微細なガラスの粒となって雲を形成しているのだ。
そして、このガラスの微粒子が、主星から降りそそぐ光のうち青い波長を強く散乱させる。だからこの星は青く輝く。地球の青が「水と空気」の青なら、HD 189733bの青は──砕けたガラスが宙を舞うことで生まれる青なのだ。
美しい青のアップ。カメラがゆっくりと地表へ降りてゆく。その瞬間、横殴りの透明な刃がレンズを切り裂く。あの青は、すべてガラスでできていた。
ここからが、痛みの本番だ。HD 189733bには、もうひとつの極端な顔がある。凄まじい暴風だ。
主星にあまりに近いこの惑星は、月が地球にいつも同じ面を向けるように、常に同じ面を主星に向けていると考えられている。昼の面は灼熱地獄、夜の面は相対的に低温。この極端な温度差が、大気に途方もないエネルギーを叩き込む。
その結果生まれる風速は、秒速2km、時速にして7000〜8700kmにも達すると見積もられている。地球で最も激しいハリケーンの風速がせいぜい時速300km。その20倍以上だ。音速(時速約1225km)すら軽く置き去りにする。
想像してほしい。摂氏1000度の大気の中で、ガラスの粒が、音速の7倍の速度で、真横から永遠に吹きつけてくる世界を。雨のように上から降るのではない。水平に、刃のように、すべてを切り裂きながら飛んでくるのだ。
美しい青の正体は、超音速で飛び交うガラスの礫(つぶて)だった。これほど残酷な「裏切り」が、宇宙にあるだろうか。
HD 189733bの過酷さは、地表(正確にはガス惑星なので明確な地面はないが)の嵐だけにとどまらない。
主星はときおり、強烈な**フレア(恒星表面の爆発現象)**を放つ。2010年の観測では、フレアの直撃を受けた直後、惑星の上層大気が膨れ上がり、毎秒1000トンを超える勢いで水素ガスが宇宙空間へ吹き飛ばされている様子がとらえられた。星が、文字どおり少しずつ蒸発しているのだ。
さらに研究者たちは、この星の大気から水蒸気、二酸化炭素、そして一酸化炭素の痕跡を検出してきた。水の分子が存在する──ただし、それは私たちの知る「水」ではない。摂氏1000度の高温高圧で、水は灼熱の蒸気としてしか存在できない。
近年は、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)という人類史上最強の赤外線望遠鏡が、こうしたホット・ジュピターの大気を、かつてない精度で読み解きはじめている。惑星の大気を透過してきた主星の光を分析する「透過分光」という手法によって、どんな分子が、どんな温度で、どんな高さに存在するのかが、少しずつ明らかになりつつある。
それでも、謎は尽きない。あのガラスの雲は、本当に大気全体を覆っているのか。雲の下では何が起きているのか。超音速の風は、惑星の昼と夜でどう変化するのか。なぜ大気はこれほど激しく失われながら、いまもこの星は存在しつづけているのか──。HD 189733bは、答えるたびに新しい問いを投げ返してくる星なのだ。
この地獄の星は、私たちに静かな問いを突きつける。
系外惑星はこれまでに5000個以上発見されてきた。そのなかには「地球に似ている」と報じられる星も少なくない。サイズが近い。岩石でできている。主星からの距離もちょうどいい。そう聞けば、私たちはつい「第二の地球」を夢見てしまう。
だがHD 189733bは教えてくれる。「青い」ことも、「地球サイズ」であることも、その星がやさしい世界であることを少しも保証しないということを。一枚のデータの裏側で、ガラスの嵐が吹き荒れているかもしれないのだ。
そして同時に、この星は地球の奇跡を照らし出す。穏やかな雨。頬をなでる、致命的でないそよ風。割れた礫ではなく、手のひらで受け止められる水滴。私たちが「あたりまえ」と呼んでいるすべてが、宇宙のなかではどれほど稀(まれ)で、どれほど壊れやすいバランスの上に成り立っているのか。
もしいつか、夜空の彼方に青く輝く星を見つけたら、思い出してほしい。
その青は、海の色かもしれない。空の色かもしれない。けれど──砕けたガラスが、音速の7倍で、永遠に横殴りに降りつづける、美しすぎる地獄の色かもしれないのだ。
64.5光年の彼方。誰も立つことのできないその惑星で、いまこの瞬間も、透明な刃の嵐が青く輝いている。私たちが安全な地上でこの文章を読んでいる、まさにその時も。
宇宙でいちばん美しい青は、宇宙でいちばん残酷な嘘をついていた。
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