
【JWSTが撮った】111光年先の惑星が、初めて「写真」になった日。 #JWST #系外惑星
【JWSTが撮った】111光年先の惑星が、初めて「写真」になった日。 私たちは、ずっと「影」だけを見てきた 夜空を見…

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土星が、自分の大きさほどもある巨大なプールに浮かぶ——という有名なたとえ話を聞いたことがあるかもしれません。土星の平均密度は水よりも低い、わずか0.687 g/cm³。だから理論上、土星は水に浮きます。
ですが、これから語る惑星の前では、その土星さえ「ずっしりと重い天体」に思えてくるでしょう。
宇宙には、綿あめよりも軽い惑星が、いくつも浮かんでいます。木星ほどの巨大な姿を持ちながら、手のひらに乗せられそうなほどスカスカ。光を受けると内部まで透けそうなほど淡く、何重もの大気の靄に包まれた、夢のように頼りない球体。
それは本当に「惑星」と呼んでよいのでしょうか。私たちの常識は、ここで静かに崩れはじめます。
人類が太陽系の外に初めて惑星——系外惑星(太陽以外の恒星を回る惑星)——を発見したのは、1995年のことでした。ペガスス座51番星を回る「ペガスス座51番星b」は、木星ほどの巨大ガス惑星でありながら、恒星のすぐ近くを猛スピードで公転していました。「ホットジュピター」と呼ばれるこの発見は、太陽系の常識がいかに狭いものだったかを突きつけました。
それから30年。発見された系外惑星は5,000個をはるかに超えました。その過程で天文学者たちは、惑星を「測る」二つの手法を磨き上げてきました。
ひとつはトランジット法。惑星が恒星の前を横切るとき、星の光がわずかに暗くなる。その「影の大きさ」から惑星の半径がわかります。
もうひとつは視線速度法(ドップラー法)。惑星の重力に引かれて恒星がわずかにふらつく。その揺れの大きさから惑星の質量がわかります。
半径と質量。この二つが揃ってはじめて、最も本質的な値——密度が計算できます。密度こそ、その惑星が岩石なのか、氷なのか、ガスなのかを語る指紋なのです。
地球の密度は5.51 g/cm³。鉄や岩石の塊である証です。水素とヘリウムのガス球である木星でさえ1.33 g/cm³。長らく天文学者は、惑星の密度とはおおむねこの範囲に収まるものだと考えていました。
ところが2010年代、観測網が広がるにつれ、誰も予想しなかった一群の惑星が姿を現しはじめます。半径は木星級に巨大なのに、質量があまりにも小さい。計算された密度は、信じがたい数字を叩き出しました。
その一群は、いつしか**スーパーパフ(super-puff)**と呼ばれるようになりました。直訳すれば「超ふわふわ惑星」。学術用語とは思えない愛称ですが、これ以上にふさわしい言葉はありません。
代表格は、地球から約2,600光年離れたケプラー51という若い恒星の系です。ここには三つのスーパーパフ——ケプラー51b、51c、51d——が確認されています。
驚くべきはその数値です。たとえばケプラー51dは、半径が木星のおよそ8割(地球の約9倍)もあるのに、質量は地球のたった6〜7倍ほどしかありません。
ここから導かれる密度は、約0.03〜0.06 g/cm³。
この数字の異常さを実感してみましょう。綿あめ(わたあめ)の密度はおよそ0.05 g/cm³。つまりケプラー51の惑星たちは、文字どおり綿あめと同じか、それより軽いのです。発泡スチロール(約0.03 g/cm³)とほぼ変わらない密度の天体が、木星ほどの巨体で宇宙に浮かんでいる。
地球の密度の、実に100分の1以下。もしこの惑星の物質をバケツ一杯すくえたとしても、片手で軽々と持ち上げられてしまうでしょう。
では、これらの惑星は内部までガスだけの「気体の泡」なのでしょうか。実際には、中心に地球数個分の岩石・氷のコアがあると考えられています。問題は、その小さなコアを取り巻く水素とヘリウムの大気が、異常なまでに分厚く膨れ上がっている点にあります。
カギは若さと熱です。ケプラー51は誕生からまだ5億年ほど(太陽は46億歳)の、宇宙の基準では生まれたての星。形成直後の惑星はまだ高温で、その熱エネルギーによって大気が大きく膨張しています。冷えて縮む前の、いわば「膨らみきった瞬間」を私たちは目撃しているのです。
さらに、コアの質量が小さいために重力が弱く、大気を強く引き締めることができません。弱い重力と高い温度——この二つが組み合わさり、ガスの層はどこまでも外へと広がっていきます。
その姿はまさに、親星の光を受けて分厚い靄に包まれた、淡く半透明の球体。内部構造は厚い雲とヘイズ(もや)に隠されて見通せず、周囲には大気の層が何重にもたなびく。質量の大半を占めるはずの中心核は、膨大なガスのベールの奥深くに沈んでいるのです。
スーパーパフは、私たちが当たり前に使ってきた「惑星」という言葉の輪郭そのものを揺さぶります。
巨大なのに軽い。ガスに包まれているのに恒星ではない。同じ半径の木星型惑星と並べても、その内実はまるで別物です。半径だけを見て分類することの危うさを、彼らは静かに教えてくれます。
スーパーパフは発見されただけで終わりませんでした。むしろ謎は深まり続けています。
2020年、ハッブル宇宙望遠鏡がケプラー51b・51dの大気を分光観測しました。本来なら、これほど膨らんだ大気はさまざまな分子の痕跡を読み取りやすいはず——研究者たちはそう期待しました。
ところが得られたスペクトルは、驚くほど平坦でした。これは、惑星の上空に高高度のヘイズ(もや)層が広がり、その下の大気を覆い隠していることを意味します。膨らんだ淡い球体は、その淡さゆえに内側を頑なに見せようとしないのです。靄に包まれて構造が隠されている、という冒頭の情景は、比喩ではなく観測事実でした。
2023年から本格運用が始まったジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)は、赤外線でヘイズの向こう側を覗き込もうとしています。スーパーパフや、同じく低密度で知られるWASP-107b——「綿あめ惑星」と紹介されることも多い、海王星サイズなのに木星級の半径を持つ惑星——の大気観測が進められています。
WASP-107bの観測では、大気中に二酸化硫黄やシリケイト(ケイ酸塩)の雲——つまり「砂の雲」——が検出され、想像を超える化学反応が膨張した大気の中で起きていることがわかってきました。
それでも、最大の謎は残ります。
スーパーパフは、惑星が生まれ、膨らみ、そして痩せていく——その一生のなかの、ごく儚い一瞬を切り取った姿なのかもしれないのです。
綿あめより軽い惑星の話は、遠い宇宙の珍事に思えるかもしれません。けれどこの発見は、もっと身近な問いへとつながっています。
それは、**「私たちの太陽系は、宇宙でどれほど『普通』なのか」**という問いです。
太陽系には、スーパーパフも、ホットジュピターも存在しません。整然と並ぶ岩石惑星とガス惑星。私たちはそれを「惑星系の標準形」だと思い込んできました。しかし系外惑星の多様性を知るほど、太陽系のほうがむしろ例外的に静かで、整いすぎている可能性が見えてきます。
スーパーパフのような極端な天体を理解することは、惑星がどう生まれ、大気をどう獲得し、どう失っていくのかという根本法則を解き明かす鍵になります。そしてそれは巡り巡って、地球がなぜ生命を宿せる稀有な場所になれたのかを理解することへとつながっていくのです。
想像してみてください。あなたが宇宙船でその惑星に近づいていく光景を。
木星ほどの巨大な球体が、親星の淡い光を受けて、ぼんやりと半透明に輝いている。表面はどこにもなく、何重もの大気の靄がどこまでも続き、手を伸ばせばそのまま雲の中へ沈み込んでいきそうな——掴みどころのない、夢のような天体。
それは、宇宙が私たちの「常識」をどれほど軽々と裏切ってみせるかの、静かな証拠です。重さとは何か。惑星とは何か。固いとは、確かとは何か。
綿あめより軽い巨人は、いまこの瞬間も、2,600光年の彼方で淡く揺らめいています。その靄の向こうに、私たちはまだ見ぬ宇宙の姿を探し続けているのです。
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