
【新発見】生まれたての星は「くしゃみ」で育つ。 #宇宙 #科学
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【新発見】生まれたての星は「くしゃみ」で育つ。
星も、くしゃみをする
想像してみてください。生まれたばかりの星が、まるで風邪をひいた子どものように「ハクション!」とくしゃみをする姿を。
荒唐無稽な空想に聞こえるかもしれません。けれど、これは比喩ではありません。地球から約450光年離れたおうし座分子雲の奥深く、いままさに産声をあげようとしている赤ちゃん星が、文字どおり「くしゃみ」をしていることが、最新の電波観測によって明らかになったのです。
そのくしゃみは、私たちの太陽系がすっぽり収まるほど巨大なスケールで、磁気のエネルギーを宇宙空間へと爆発的に吹き飛ばしていました。生まれたての星は、なぜくしゃみをするのか。そして、その一回のくしゃみが、星の運命をどう変えるのか——。今夜は、星のゆりかごへの旅に出かけましょう。
星はどうやって生まれるのか——百年越しの問い
そもそも、星はどこから来るのでしょうか。
夜空に瞬く無数の星々。その材料は、宇宙空間に漂う薄いガスと塵(ちり)の雲、すなわち分子雲です。水素分子を主成分とするこの雲は、1立方センチメートルあたりわずか数百〜数万個の分子しか含まない、地球上のどんな真空よりも希薄な空間です。それでも、宇宙のスケールでは膨大な質量をもちます。
この雲の中で、ひときわ密度の高い領域が自らの重力でゆっくりと収縮しはじめると、中心にガスが集まり、温度が上がり、やがて原始星(プロトスター)——星の卵が誕生します。
ここで重要なのが「回転」です。わずかな回転をしていた雲が縮むと、フィギュアスケーターが腕を縮めると回転が速くなるのと同じ原理(角運動量保存の法則)で、回転がどんどん加速します。その結果、原始星のまわりには、落下してきたガスと塵が円盤状に渦巻く原始惑星系円盤が形成されます。この円盤こそ、やがて惑星が生まれる舞台となるのです。
ところが、20世紀の天文学者たちは長年、ある厄介な矛盾に頭を悩ませてきました。それが「角運動量問題」と「磁束問題」です。
理論どおりなら、回転が速くなりすぎて、ガスは中心の星まで落ちきれずに吹き飛んでしまうはず。さらに、分子雲はもともと弱い磁場(磁力線)を抱えており、雲が縮むと磁力線も束ねられて強くなります。この強すぎる磁場(磁束)が、計算上はガスを円盤に貼り付けてしまい、円盤の形成そのものを妨げてしまう——。
「星が生まれるためには、余分な回転と磁場を、どこかへ逃がさなければならない」。これが、一世紀近く解かれずに残された宿題でした。その答えの一端が、星の「くしゃみ」だったのです。
1,000AUのスパイク——爆発的に吹き飛ぶ磁束
謎を解く鍵を握ったのは、南米チリの標高5,000メートルの高地にある巨大電波望遠鏡群**ALMA(アルマ)**です。
研究チームが詳しく観測したのは、おうし座分子雲にある若い原始星「MC 27(L1527)」。生まれてからわずか数万年——人間でいえば、まだ生後数日の新生児に相当する、きわめて若い天体です。
ALMAが捉えたのは、原始星を取り巻く円盤の表面から、外側へ向かってスパイク(突起)状に飛び出す、いくつもの不規則な構造でした。その大きさは、長いもので**1,000天文単位(AU)**にもおよびます。1天文単位は地球と太陽の距離(約1億5,000万キロメートル)ですから、太陽から海王星までの距離の30倍以上。まさに太陽系をまるごと飲み込むスケールです。
これらのスパイクは、いったい何なのか。研究チームの解析が示したのは、驚くべきメカニズムでした。
円盤の中には、ガスとともに磁力線が大量に蓄えられています。やがて磁場のエネルギーが限界まで高まると、磁気リコネクション(磁力線が切れて繋ぎ変わり、エネルギーを一気に解放する現象。太陽フレアの原動力でもあります)が起こります。その瞬間、円盤にため込まれていた磁束が、ガスや塵もろとも爆発的に外へ吹き飛ばされるのです。
研究者たちはこの現象を、たまった刺激をくしゃみで一気に吐き出す様子になぞらえ、「ベビースニーズ(赤ちゃんのくしゃみ)」と名づけました。
ここで思い出してください。冒頭のビジュアル——分子雲の闇を背景に、原始星が円盤から磁束を爆発的に噴き上げ、まわりに温かいリング状の構造が浮かび上がる、あの情景を。観測では、スパイクの根元あたりに、周囲よりわずかに温度の高いリング状の構造も見つかっています。これは、磁束が解放されたときに発生したエネルギーが、ガスを温めた痕跡だと考えられています。
つまり「くしゃみ」は、ただの放出現象ではありません。星が、自らの成長を妨げる余分な磁場を能動的に捨て去る、生存のための作法だったのです。くしゃみによって磁束を逃がすからこそ、円盤は安定して保たれ、その中で惑星が育つ環境が整う。生まれたての星は、くしゃみをしながら、ゆっくりと大人へと成長していくのです。
まだ解かれていない、星のゆりかごの謎
この発見は、星形成の理解を大きく前進させました。けれど、宇宙はいつものように、新たな問いを私たちに投げかけています。
第一に、「くしゃみ」はどれくらいの頻度で起きるのか。一度きりの偶発的な現象なのか、それとも星が成長するあいだ、何度も繰り返される周期的なイベントなのか。もし繰り返されるなら、そのリズムは星の最終的な質量や、まわりにできる惑星の数を左右するかもしれません。
第二に、くしゃみは惑星の材料に何をもたらすのか。爆発的に放出されるエネルギーは、円盤内の塵を加熱し、化学組成を変化させる可能性があります。私たちの太陽系も、46億年前の幼少期に同じようなくしゃみを繰り返していたとすれば、地球をつくった材料そのものが、その影響を受けていたのかもしれません。
さらに研究者たちは、MC 27の周辺に、円盤とは別の謎めいた構造があることにも気づいています。原始星のすぐ近くに、もう一つの小さな天体の卵が潜んでいる可能性——つまり、ここが**連星(2つの星のペア)**が生まれる現場である可能性も指摘されています。星は意外なほど、ひとりでは生まれないのです。
ALMAをはじめとする次世代の電波・赤外線望遠鏡は、これからさらに多くの「くしゃみをする赤ちゃん星」を見つけ出すでしょう。一つひとつのくしゃみを丹念に観測することで、私たちはようやく、「星はいかにして生まれるか」という百年の問いの全貌に近づこうとしています。
あなたの中にも、星のくしゃみが眠っている
少し、足元に目を向けてみましょう。
あなたの体をつくる炭素も、酸素も、血液を赤くする鉄も、すべてはかつて星の内部で生み出され、宇宙にばらまかれた元素です。そしてその星々もまた、かつては分子雲の中でくしゃみを繰り返した、生まれたての赤ちゃん星だったのかもしれません。
星が余分な磁束を吹き飛ばし、円盤を整え、惑星を育み、その惑星のひとつで生命が芽生え、やがて夜空を見上げて「星はどうやって生まれるのか」と問う存在になる——。一回のくしゃみから、私たちまでの壮大な物語が、確かにつながっているのです。
星は、いまも、くしゃみをしている
今夜、おうし座が空に昇ったら、その方角をそっと見上げてみてください。
肉眼では何も見えないその闇の奥で、450年前に放たれた光が、いまあなたの瞳に届いています。そしてその同じ場所で、生まれたての星が、太陽系ほどもある巨大なくしゃみを、いままさに——ハクション、と——放っているのです。
宇宙は、静かに見えて、くしゃみに満ちている。
その小さな爆発の一つひとつが、次の星を、次の惑星を、そしていつかの「あなた」を、つくっているのかもしれません。
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