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【地球防衛】迫る小惑星に「物理的」に激突するNASAの作戦。 #宇宙 #NASA

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【地球防衛】迫る小惑星に「物理的」に激突するNASAの作戦

もし、空から「終わり」が落ちてくるとしたら

今から約6,600万年前、直径およそ10キロメートルの小惑星が地球に衝突しました。落下地点は、現在のメキシコ・ユカタン半島。その一撃は、TNT火薬にして数十億メガトンに相当するエネルギーを解き放ち、恐竜を含む全生物種の約75%を地上から消し去りました。

恐竜たちには、なすすべがありませんでした。彼らには望遠鏡も、ロケットも、そして「迫り来る死」を計算する数学もなかったからです。

しかし、私たち人類は違います。2022年9月、人類史上初めて、私たちは「天体の軌道を、自らの手で変える」という神話のような所業をやってのけました。その武器は、核兵器でも巨大なレーザーでもありません。たった一機の、小さな探査機を「体当たり」させる――それだけだったのです。

なぜ「ぶつける」のか――地球防衛の長く静かな歴史

小惑星の脅威が科学者たちの間で真剣に議論され始めたのは、意外にも最近のことです。

きっかけは1980年、物理学者ルイス・アルヴァレズらが発表した「恐竜絶滅は小惑星衝突が原因」という説でした。地層に含まれるイリジウム(地球の地殻には少なく、隕石に多く含まれる元素)の異常な濃集が、その証拠となりました。「絶滅は、宇宙からやって来た」――この衝撃的な仮説は、人類に一つの問いを突きつけました。「では、次は私たちの番ではないのか?」と。

その後、各国の天文台は地球に接近する天体、すなわち**NEO(地球近傍天体/Near-Earth Object)**の捜索を本格化させます。現在、直径140メートル以上の潜在的に危険な小惑星は、3万個以上が確認されています。直径140メートルといえば、衝突すれば一つの都市圏を壊滅させるのに十分なサイズです。

では、もし衝突コースの小惑星を発見したら、どうするのか。映画では核兵器で「破壊」しますが、現実には危険です。砕いた破片がそれぞれ地球に降り注げば、被害が拡散しかねないからです。

そこで科学者たちが選んだのが、より現実的で、よりエレガントな戦略でした。それがキネティック・インパクター(運動衝突体)――早期に発見し、何年も前にほんの少しだけ「押して」、軌道をずらす。わずか数ミリ秒の速度変化でも、何年もかけて宇宙空間を進むうちに、軌道は地球を外れるほど大きくずれていくのです。

理論は完璧でした。しかし、誰も試したことがありませんでした。

DART――自爆覚悟の特攻、その科学

2021年11月、NASAは一機の探査機を打ち上げました。その名はDART(ダート/Double Asteroid Redirection Test)。「ダート」とは投げ矢のこと。その名の通り、この探査機は標的に向かって真っ直ぐに突き刺さるために造られた、片道切符の機体でした。

標的は「二重小惑星」

標的に選ばれたのは、ディディモスという直径約780メートルの小惑星と、その周りを回る直径約160メートルの小さな衛星ディモルフォスでした。DARTが狙ったのは、この小さな方、ディモルフォスです。

なぜ二重小惑星なのか。そこには天才的な計算がありました。ディモルフォスはディディモスの周りを約11時間55分かけて公転しています。もしDARTの衝突で公転速度が変われば、この公転周期の変化を地上の望遠鏡から精密に測定できる。広大な太陽系の中で小惑星の軌道変化を直接測るのは至難の業ですが、「衛星の周回時間のズレ」なら、地球から確実に検出できるのです。実験室のような、見事なお膳立てでした。

600万キロ彼方の、針の穴を通す一撃

DARTは打ち上げから約10か月をかけ、約1,100万キロメートルの旅路を進みました。そしてその間、地球からの遠隔操縦は不可能でした。電波が往復するだけで時間がかかりすぎるため、最後の数時間、DARTは**自律航法システム(SMART Nav)**に従い、自らの「目」だけを頼りに標的へ突入していったのです。

衝突の直前まで、ディモルフォスはただの一点の光に過ぎませんでした。探査機がそれを「岩の塊」として認識できたのは、衝突のわずか1時間ほど前。そこから機体は、暗闇に浮かぶ巨大な岩の表面――ゴツゴツとした岩石が無数に転がる荒涼たる大地へと、秒速約6.1キロメートル(時速約2万2,000キロメートル)で、ためらいなく突進していきました。

運命の瞬間

2022年9月26日、日本時間の朝。DARTから送られてくる映像は、刻一刻と岩肌を大きく映し出していきました。岩石の一つひとつ、その陰影までもがはっきりと見えるほどに迫り――そして次の瞬間、画面は赤一色に染まり、通信は途絶えました。

それは、機体が標的に激突し、約570キログラムの探査機が、巨大な岩の前で粉々に砕け散った証でした。管制室は、静寂のあとに、割れんばかりの歓声に包まれました。一機の探査機の「死」が、地球防衛の「誕生」を告げた瞬間でした。

予想を超えた成果と、残された謎

DART計画は成功しました。しかし、その「成功の度合い」は、科学者たちの予想を遥かに上回るものでした。

衝突前、ディモルフォスの公転周期は11時間55分。NASAが「成功」とみなす基準は、これを73秒以上短縮することでした。ところが結果は――約32分(正確には32分プラスマイナス2分)もの短縮。目標の実に25倍以上という、桁違いの効果だったのです。

なぜこれほど効いたのか。鍵を握ったのが、衝突によって噴き出した**噴出物(エジェクタ)**でした。

DARTがぶつかった際、ディモルフォスの表面からは大量の岩石やチリが宇宙空間へ吹き飛ばされました。地上の望遠鏡や、同行していた超小型衛星**リチアキューブ(LICIACube)**が撮影した姿は、まるで彗星のように何千キロにもおよぶ尾を引いていました。

ここに物理学の妙があります。噴き出した物質がロケットの噴射のように逆向きの推進力を生み、探査機本体の運動量に「上乗せ」される形で、小惑星をさらに強く押したのです。この上乗せ効果を示す係数「ベータ値」は、3.6程度と算出されました。つまり、ぶつけた運動量の3倍以上の力で軌道を変えられたことになります。

この事実は、地球防衛にとって朗報であると同時に、新たな謎も投げかけました。ディモルフォスのように、岩が緩く寄せ集まった**「ラブルパイル(瓦礫の山)」構造**の小惑星は、想像以上に「押しやすい」のかもしれない。しかし、その効果は小惑星の組成や構造に大きく左右されます。固い一枚岩の小惑星だったなら、結果はまるで違っていたはずです。

宇宙にある無数の小惑星は、その一つひとつが異なる素顔を持っています。私たちはまだ、その全てを知ってはいないのです。この謎を解くため、欧州宇宙機関(ESA)は探査機**ヘラ(Hera)**を2024年に打ち上げました。ヘラは2026年末にディモルフォスへ到達し、DARTが刻んだ「人類初のクレーター」を間近で調査する予定です。

「もしも」に備える時代を生きる私たち

小惑星衝突は、地震や台風と並ぶ自然災害です。ただし、ただ一つだけ決定的に違う点があります。それは――事前に予測でき、そして防ぐことができる唯一の自然災害だということです。

DARTの成功は、私たちに静かな、しかし確かな安心を与えてくれました。今この瞬間、地球に衝突する軌道の巨大小惑星は見つかっていません。けれど、もし数十年後にそうした天体が発見されたとしても、人類はもはや恐竜のように立ちすくむだけの存在ではない。「押し返す術」を、私たちは現実のものとして手にしたのです。

それは、国境を越えた一つの希望でもあります。小惑星に国境はなく、その脅威は全人類に等しく降りかかる。だからこそ、地球防衛は人類が一つになって取り組むべき、数少ない共通の課題なのです。

星空の下で

今夜、空を見上げてみてください。静かにまたたく星々の向こう、暗い宇宙の海には、今も無数の岩の塊が、太陽の周りを巡り続けています。そのうちのいくつかは、いつか地球の近くを通り過ぎるかもしれません。

かつて、空から落ちてくる岩は「神の裁き」であり、「逃れえぬ運命」でした。しかし私たちは、たった一機の小さな探査機を、自らの意志で巨大な岩へと突入させ、その運命を、ほんの少しだけ書き換えてみせた。

恐竜が見上げることしかできなかった空に、人類は今、手を伸ばし始めています。畏怖すべき広大な宇宙の中で、私たちは確かに、自らの未来を守る一歩を踏み出したのです。

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