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【足元5100km】地球の中心は、向きを変えはじめた。 #地球科学 #内核

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【足元5100km】地球の中心は、向きを変えはじめた。

あなたが今、立っているその場所。靴底の、わずか数センチ下に広がる地面。その「下」へ、ひたすらまっすぐ、トンネルを掘り進んでいくことができたとしたら——あなたは何を見るだろうか。

土を抜け、岩盤を抜け、灼熱のマントルを越え、ドロドロに溶けた金属の海を泳ぎ渡る。そして5100kmほど潜った先、地球のいちばん奥深く。そこには、月よりやや小さい、固体の鉄でできた巨大な球体が、青白く輝きながら眠っている。

その球体が、いま、回転の向きを変えはじめた——そんな研究が世界を驚かせた。あなたの足元、その遥か下で、何かが静かに、しかし確かに、いつもと違う動きをしている。

地球の「入れ子構造」と、誰も見たことのない中心

私たちは地球の表面で暮らしている。しかしその内部については、驚くほど何も「見て」いない。人類がこれまで掘った最も深い穴、ロシアのコラ半島超深度掘削坑でさえ、到達したのはわずか12.3km。地球の半径は約6371kmだから、リンゴの皮のさらに薄皮を引っかいた程度にすぎない。

では、なぜ私たちは地球の中心の構造を語れるのか。鍵は地震波にある。

大きな地震が起きると、その振動は波となって地球内部を伝わり、地球の裏側にまで届く。波は、硬い物質・柔らかい物質・固体・液体の境界で、屈折したり反射したり、速度を変えたりする。世界中に張りめぐらされた地震計が、その「揺れの届き方」を記録する。研究者たちは、まるでレントゲン写真を読むように、その波のパターンから地球内部の層構造を描き出してきた。

こうして20世紀、地球の入れ子構造が明らかになっていく。

  • 地殻:私たちが暮らす、厚さ数km〜数十kmの薄い岩の殻
  • マントル:地殻の下、深さ約2900kmまで広がる岩石の層
  • 外核:深さ2900〜5100km。液体の鉄とニッケルでできた灼熱の海
  • 内核:深さ5100km〜中心。固体の鉄でできた、半径約1220kmの球体

特に劇的な発見が、1936年。デンマークの女性地震学者インゲ・レーマンが、地震波の奇妙な反射から「液体の核の、さらに内側に固体の核がある」ことを見抜いた。誰も見たことのない地球の最深部を、彼女は数式と観測データだけで言い当てたのだ。地球の中心に潜む「鉄の月」の存在は、こうして人類の知識となった。

摂氏5500度、なのに「固体」——内核という究極の矛盾

内核の温度は、およそ摂氏5500度。太陽の表面温度に匹敵する灼熱だ。鉄は1500度ほどで溶ける。常識で考えれば、内核の鉄など、跡形もなく溶け切っているはずである。

ところが内核は、れっきとした固体だ。なぜか。

答えは圧力にある。内核にかかる圧力は、地表の約360万倍。これは、原子と原子が極限まで押し縮められ、もはや動き回ることを許されない世界だ。どれほど高温でも、鉄の原子は整然と並んだまま、結晶構造を保つ。高温が「溶けろ」と命じ、超高圧が「動くな」と命じる。その綱引きの果てに、内核は固体として存在している。地球の中心とは、灼熱と超高圧がせめぎ合う、究極の矛盾を抱えた場所なのだ。

そしてここからが本題だ。この固体の内核は、地球本体にぴったり固定されているわけではない。

内核のすぐ外側は、液体の外核だ。固体の球体が、液体の海に「浮かんで」いる状態を想像してほしい。だからこそ内核は、地球の自転とは独立に、わずかに速く、あるいは遅く回ることができる。この現象を差動回転と呼ぶ。

地球を半透明にして、その断面を覗き込んでみよう。地表の大陸や海はいつものペースで自転している。だが中心で青白く輝く鉄の球体だけは、ほんの少しだけ違うリズムで、静かに回り続けている——その神秘的なクロスセクションこそ、内核という存在の核心である。

「逆回転」の正体——金色の地震波がとらえたもの

内核がわずかに速く回っている、という仮説は1990年代から議論されてきた。ある地震の波が、過去の似た地震とくらべて、内核を通過するときに「速度がずれる」。そのずれを長年追いかけることで、内核の回転の様子が推定できる。内核を貫く地震波の軌跡を、もし金色の線で描けたなら——その線の届くタイミングのわずかな変化こそが、回転を読み解く手がかりなのだ。

2023年、中国・北京大学の研究チームが発表した分析は、世界に衝撃を与えた。彼らは数十年分の地震波データを精査し、こう結論づけた。

2009年ごろを境に、内核の差動回転が止まり、その後、地表に対してわずかに逆向きに動きはじめた可能性がある。

ここで誤解してはいけないのは、「内核が突然逆回転を始めて、地球が崩壊する」といった話ではないということだ。実際には、内核は地球の自転とほぼ同じ向き・ほぼ同じ速さで回り続けている。問題なのは、そのごくわずかな「差」だ。

研究者たちが提唱するのは、内核の回転速度が地表に対して約70年周期で振動しているというモデルだ。ある時期は地表よりわずかに速く、ある時期はわずかに遅い。その「遅い局面」に入ると、地表を基準に見れば相対的に「逆向きに動いている」ように見える。2009年は、ちょうどその切り替わりのタイミングだった、というわけだ。

70年周期。つまり前回の切り替わりは1970年代初頭にあったはずで、次の節目は2040年ごろに訪れることになる。これが正しければ、地球の中心は、人の一生ほどの時間をかけて、ゆっくりと「行きつ戻りつ」を繰り返していることになる。

まだ何も、確かではない

ただし——科学はここで立ち止まる。この「逆回転」説は、まだ決着していない。

別の研究チームは、振動周期は70年ではなく約6年だと主張する。さらに、「そもそも内核は回転しているのではなく、その表面の形が変化しているのではないか」という大胆な仮説も提出されている。内核が回っているように見える信号は、実は内核の表面が溶けたり固まったりして変形している証拠ではないか、というのだ。

なぜこれほど意見が割れるのか。理由は単純で、データが圧倒的に足りないからだ。私たちは内核を直接観測できない。頼れるのは、たまたま都合のよい場所で起きた大地震の波だけ。その貴重なデータを、地球の裏側のわずかな地震計で拾い集めている。5100kmの彼方を、針の穴から覗いているようなものなのだ。

それでも、この研究が指し示す未解明の謎は果てしなく深い。内核の回転は、地球の磁場——太陽からの有害な放射線をはね返し、生命を守る見えないバリア——とも深く関わっていると考えられている。内核と外核と磁場が、どう手を取り合って踊っているのか。その全貌は、まだ誰も知らない。

足元の鼓動が、あなたの世界を支えている

内核が逆回転しようが、向きを変えようが、明日のあなたの生活が変わるわけではない。地震が増えるわけでも、1日の長さが突然変わるわけでもない。変化はあまりに微小で、あまりにゆっくりだ。

だが、思い出してほしい。地球の磁場——内核と外核のダイナミクスが生み出すこの磁場がなければ、地球の大気は太陽風に少しずつ剥ぎ取られ、火星のように干からびた死の星になっていたかもしれない。あなたが今日、空気を吸って生きていられること。その根源をたどっていけば、足元5100kmの鉄の球体の、静かな回転に行き着くのだ。

私たちの日常は、見えない中心の鼓動に、確かに支えられている。

静かに、回り続けている

もう一度、あなたの足元を見てほしい。

その下に広がるのは、ただの「地面」ではない。岩があり、灼熱のマントルがあり、金属の海があり、そして中心には、太陽表面ほどの熱を抱えながら、超高圧に閉じ込められて固く凍りついた、青白い鉄の月が浮かんでいる。

それは今この瞬間も、私たちの自転とはほんの少し違うリズムで、静かに、誰にも気づかれず、向きを変えている。

地球は、外から眺めればただ青く美しく自転する一個の惑星にすぎない。けれどその深奥では、人智の及ばぬスケールのドラマが、46億年前からずっと続いている。私たちはまだ、その物語の最初の一行を読みはじめたばかりなのだ。

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